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第68話 証言台の夫

Author: なつめ
last update publish date: 2026-08-22 16:53:41

 奏音の容体が安定したあと、暫定監護と医療判断権に関する審理が再開された。

 会場は病院内の会議室だった。手術の直後であることを考慮し、一部はオンラインで接続されている。詩乃は旭の隣に座り、膝の上で両手を重ねていた。奏音は集中治療室で眠っている。心臓は動いている。指も動いた。けれど、まだ完全に目を覚ましたわけではなかった。

 それだけで、詩乃の胸はずっと張り詰めている。

 それでも、この場から逃げるわけにはいかなかった。

 画面の向こうには担当者が並び、瑛子側の弁護士が資料を整えている。瑛子本人も同席していた。背筋を伸ばし、薄い笑みを浮かべる姿は、病院の会議室でさえ鷹宮邸の応接室に変えてしまうような圧を持っていた。

 その場で、怜司が自ら証言を申し出た。

 瑛子側の弁護士は、最初それを有利な材料だと受け取ったようだった。怜司は奏音の父親であり、詩乃との離婚を拒んでいる。ならば、鷹宮家側に立つはずだと考えるのは自然だった。

 だが、怜司は証言台に立つと、最初に深く息を吸った。

「まず、私自身の過ちを認めます」

 会議室の空気が、わずかに動いた。

 怜司は詩乃を見なかった。見れば、言葉が
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  • 結婚七年目冷たい夫を捨てた夜、義弟が迎えに来ました 〜秘密を抱いた契約妻は、もう愛を乞わない〜   第67話 目覚めるまでの歌

     手術は終わった。 その言葉を聞いた瞬間、詩乃は膝から力が抜けそうになった。けれど、終わったという言葉は、無事にすべてが戻ったという意味ではなかった。 奏音の心臓は動いている。 医師はそう告げた。 ただ、まだ目を覚まさない。 集中治療室の前は、手術室の前とは違う静けさに満ちていた。厚いガラスの向こうに、奏音の小さな身体が横たわっている。白いシーツ。複数の管。人工呼吸器。胸元に貼られた電極。一定の間隔で音を立てるモニターの数字。五歳の子供にはあまりにも多すぎるものが、奏音の周りに並んでいた。 詩乃はガラスに近づき、声もなく娘を見つめた。 約束したのだ。 起きたら、一番に会いに行くと。手術の間も、寝ている間も、ずっと近くで待っていると。離れても、赤いクレヨンの線のようにつながっていると。 それなのに、今もガラスの向こうへ入ることは許されない。 医師は、身体への負担が大きかったため、覚醒まで時間が必要だと説明した。一度、心拍が停止したこと。戻ったとはいえ、体力の消耗が激しいこと。状態を慎重に見ながら、刺激を最小限にしなければならないこと。 詩乃は頷いた。 分かっているつもりだった。 けれど、母親の身体は納得してくれなかった。今すぐ駆け寄って、奏音の手を握りたい。額に触れたい。怖かったね、頑張ったねと耳元で言いたい。けれど詩乃に許されているのは、ガラス越しに見守ることだけだった。 椅子に座ると、ようやく呼吸が浅くなっていることに気づいた。 詩乃は両手を膝の上で握り、目を閉じた。そこに浮かんだのは、母の声だった。 神澤家の古い音楽室。磨かれた木の床。窓から入る午後の光。声楽家だった母が、幼い詩乃の髪を撫でながら歌ってくれた子守歌。父のヴァイオリンが遠くで調弦する音。まだ何も壊れていなかった家の、柔らかな記憶。 詩乃は、小さく歌い始めた。 かすかな声だった。 ガラスの向こうに届くかどうかも分からない。それでも、歌わずにはいられなかった。 奏音を産んだ夜、誰にも祝われなかった病室で、この歌を聞かせた。発作で苦しむ夜も、検査の朝も、薬を嫌がって泣いた日も、何度も歌った。詩乃にできることが何もない時、それでも奏音のそばにいると伝えるために歌った。 怜司は、少し離れた場所でその声を聞いていた。 妻が音楽一家の娘だったことは知っていた。神澤家

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